始まりの日は雨だった -ジャニーズの新星・SixTONESとデビュー曲“Imitation Rain”に寄せて-

こちらの文章もまた、2020年1月28日にrockin'on音楽文に掲載していただいたものです。原文ママで供養。

 

 

始まりの日は雨だった
ジャニーズの新星・SixTONESとデビュー曲“Imitation Rain”に寄せて

 

雷鳴が轟き、雨音が聞こえる。私の頬につたうこの雫は雨か、涙か。息をすることすら忘れ、そこに立ちつくしていた。

会場の真ん中・センターステージで魂を燃やし続ける6人の革新者たちが、雨音のなか、観客に背を向けてメインステージへ歩いていく。横一列に並んだ6人の姿を見て、今から披露される彼らのデビュー曲が、これまで彼らが進んできた足跡・集大成であり、同時にこれからに向けた覚悟と決意表明であることを悟った。『僕たちは、世界を目指します』という彼らの言葉がフラッシュバックした。静寂に溶け込むようなピアノのメロディから、この曲――"Imitation Rain"は始まる。

彼らの名は、SixTONES
  
SixTONES(ストーンズ)は、ジャニーズ事務所に所属する6人組アイドルグループだ。他を圧倒するほどの存在感と挑発的なパフォーマンスでジャニーズJr.の先陣を切ってきた。そんな彼らが、2020年1月22日、ついにCDデビューする。
ジャニーズの若手アイドルなんてこのサイトで読む話題ではない、と思うかもしれない。それでも私が投稿したのは、ジャニーズソングの新境地を、彼らが切り拓こうとしていると強く感じるからだ。そして何より、この楽曲をジャニーズファンの中に留めておくだけでは勿体無さ過ぎるのだ。
 
ジャニーズのデビュー曲というと、嵐の“A・RA・SHI”やSexy Zoneの“Sexy Zone”のように名刺の役割を果たすもの、KAT-TUNの“Real Face”やKing & Princeの“シンデレラガール”のようにグループの方向性を世間に示すものなど様々だが、どれもキャッチーでフレッシュ、かつ爆発的だ。

SixTONESのデビュー曲“Imitation Rain”は、どこにも属さない。音楽的に紹介するならば「エモーショナルなミディアムロックバラード」で、わかりやすく言い換えるなら「ジャニーズのデビュー曲っぽくない」だ。
この「っぽくなさ」が、この曲の要であると思う。繊細なメロディラインと複雑なハーモニー。触ったら崩れてしまいそうな楽曲のバランス。彼らしか足を踏み入れることができない、いわば聖域。
X JAPANYOSHIKIがプロデュースを手掛けたこの曲は、ジャニーズのアイドルグループが世間に放つ初手の一曲としては異例と呼べるだろう。しかし、そうであるからこそ、前例のないことを成し遂げようとぐらぐらと信念を燃やしている。そんなSixTONESの力強さがこの曲から感じられる。
  
《Fake dreams 壊れてゆく ガラスの薔薇のように》
《戻れない 時代(とき)を振り返る/流れる時間を止めて》

SixTONESが結成されてから、5年が経とうとしている。メンバー全員がジャニーズJr.として10年以上の下積み期間を経験しており、華々しいデビューが決定するまでの道のりは決して平坦ではなかった。
デビューに最も近い位置にいると言われながら、ジャニーズJr.として活動を続けていたSixTONES。「デビュー」の4文字と淡い期待が浮かんでは消え、花びらのように散っていく。メンバー全員が、このグループがラストチャンスだと思ってSixTONESに賭けていたという。
 
《Imitation Rain/時には激しく 心に降り注ぐ/Shall we play this game/紅に染まるまで 雨に打たれて》

「紅」というYOSHIKIX JAPANを彷彿とさせるワードが使われているのにはただただ驚くばかりだった。YOSHIKIにとってX JAPANの名曲である「紅」とはこの上なく特別なワードだろう。YOSHIKIは、“Imitation Rain”のプロデュースに際したコメントで『SixTONESが海外でのJ-POPのイメージを一新させる可能性を秘めたグループだと確信した』と述べた。歌詞に散りばめられた言葉たちから、SixTONESへの期待を感じずにはいられない。
 
《Should I play this endless game》

SixTONESは、音楽とパフォーマンスで既存のアイドルの型を打ち破り、新しいジャニーズアイドル像を体現しようとしているように思う。
前代未聞の挑戦には、逆風がつきものだ。「ジャニーズっぽくない」点がこの曲の要だと述べたが、そこには「っぽくない」という「SixTONESらしさ」が紛れもなく存在している。新境地へ向けた終わりなき挑戦。これを続けるべきなのか?続けて何の意味があるのか?と問うラップ詞のアンサーが、以下である。
 
《Shall we play this game/紅に染まるまで 雨に打たれて》

6人がステージの真ん中で、強く前を見据えて歌う。その後ろで次々と上がる炎がMVを思わせる。Iで投げかけた問いにweで応えるこのアンサーには痺れた。これからの旅路、1人も置いていくつもりはないのだろう。《Shall we〜》のフレーズは、曲中に複数回出てくるが、ここでは前述したラップ詞へのアンサーだと考えると、また一味違って聞こえてくる。
炎をバックに、最後の一音まで神経を張り詰めたパフォーマンスで魅せたSixTONES。とんでもないものを観た。そう思った。
  
SixTONESには、既存の世界を変えてほしいと思っていた。彼らをヒーローか何かになぞらえた、あまりにも漠然とした希望だった。でも、デビュー曲としての“Imitation Rain”を聴いてから、それは願いではなくて現実になるのではないかと思うのをやめられないのだ。

“Imitation Rain”は、きっとSixTONESがこれから私たちに魅せる革命への序曲だ。土砂降りの雨のなか、翼を広げた新たなジャニーズアイドルが今、飛び立つ。